理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学-文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」領域代表者 田原太平 (平成25-29年度) やわぶん

 

研究概要

理論と実験の協奏による柔らかな分子系の機能の科学
● 研究項目A01
柔らかな分子系解析
● 研究項目A02
柔らかな分子系計測
● 研究項目A03
柔らかな分子系創成

物質は単一の分子から細胞に至る階層構造を成しますが、この中で現在の化学のフロンティアは複雑系の機能の解明と創出にあると言えます。生体分子系に代表される高い機能を有する複雑系の本質は、大きい内部自由度を持ち、系が状況に応じて柔軟に変化して最適な機能を発現する、という点にあります。このような特質をもつ複雑分子系を「柔らかな分子系」と定義し、その機能の理解と制御に向けて、分子科学、生物物理学、合成化学、理論・計算科学を統合した研究を行います。具体的には生体分子、超分子、分子集合体、界面等に代表される柔らかな分子系とその要素過程に対して、理論計算、先端計測、機能創成の3つアプローチを融合した研究を行い、複雑系に対する新しい「分子の科学」の学術領域を創成します。


「柔らかな分子系」の研究は、多体問題である複雑な現実系をどのように分子の立場で取り扱うかという問題です。また、フェムト秒での局所的な刺激がどのようにミリ秒~秒の分子応答を引き起こすのか、あるいは数個の原子団の量子状態の変化がいかに巨大分子の機能発現につながるのかを研究することです。これを行うためには、広い時間・空間スケールを俯瞰する総合的な新しい視点で研究を行わなければなりません。そこで本領域では以下の3つの研究項目を設け、理論計算、計測先端、機能創成が三つ巴になって「柔らかな分子系の科学」を推進します。

(1) A01項目(分子系解析):分子系が柔らかさを活かして機能を発現する機構を、超高速計算機の開発を背景にした革新的な分子理論による理解と予測によって明らかにします。さらにA02 項目の実験結果を元に理論計算の検証・改良を行って定量性の高い計算を実現し、A03 項目と連携して機能・構造の予測と分子設計を行います。

(2) A02項目(分子系計測):柔らかな分子系のもつ多様な準安定状態とダイナミクスを時間分解分光や単一分子計測などの最先端計測によって観測・解明します。また柔らかさに基づく現象の観測のための新しい手法を開発します。観測された分子の動的性質と機能との関係を A01項目および A03項目と連携して解明します。

(3) A03項目(分子系創成):合成化学・遺伝子工学を駆使して、超分子やタンパク質など柔らかさを有する分子系の新規な機能を創成します。A01 項目の理論計算、A02 項目の先端計測と連携することによって、戦略的、独創的な機能創成を実現します。